「テイスト・オブ・ジャズ」は、毎週日曜19:00~19:30で放送中。番組収録のウラ話はこちらのブログでも紹介されています。
【小西啓一の今日もジャズ日和Vol.728~リッチー・バイラーク~】
最近のぼくのスケジュールは時々仕事に出たり仕事関連の打合せ、友人達との会合や原稿書きなど...。自称瘋癲オールドなだけに、基本は家に居てボヤっとしている訳で、やることと言ったらもっぱらジャズを聴くか読書...と言った感じ。偉そうにジャズを聴くと言っても、前にも書いたが終活作業の一環で、アルバムの取捨選択(なるべく捨てる訳だが...)の為に聴いていると言った感も強い。まあそれでも必ず何らかの収穫はあるもので、先日もピアニストのリッチー・バイラークの日本でのソロ・ライブ盤(95年)を見つけ出した。このアルバム、内容も素晴らしい上にライナーノートを、珍しくもあの世界的な作曲家、武満徹がものしており,本当に嬉しい気付きだった。武満は若かりし頃に信州・御代田の山荘で番組のインタビューをした覚えがある、ぼくのフェイバリット音楽家でもある。
ところでリッチー・バイラークと言っても、ここ10数年位は日本でのアルバム発売は無く、話題にもならないだけに、その名前を知らないファンの方の多いと思われる。ここ10年ほどは欧州を拠点に活動を展開、ドイツの大学などでジャズを教えているとも聞くが、余り色々な人と組むことのない一匹狼的存在で、年令はもう70台半ばの大ベテラン。2000年代の初め頃、即ちまだジャズが活況だった頃には、日本でも良く知られた人気ピアニストの一人だったが、日本贔屓で日本公演なども数多い。なんと我がジャズ番組「テイスト・オブ・ジャズ」にも、90年代初めの来日公演の合間に、スタジオに遊びに来てくれたこともある貴重なピアニスト。
日本でも人気のあった人だけに、そのリーダー作は何と70枚弱。その内かなりの数を日本のレコード会社から出しており、今回見つけ出したアルバムも、95年の来日公演をなんと長野県の松代町と言う、ジャズにとってのいささか辺境とも言える場所でライブ収録したもの。「寿限無」と言うプライベートレーベルから出されており(その為にこれまで気付かなかったのだが...)、リッチーのかなり熱心なファンが個人的に出したものかとも思われるが、この当時の彼の充実振りを窺わせる好内容のソロ作品でもある。
NYで生まれ育った彼は、ジャズとクラシックの双方に通じた素晴らしいピアニストで、あの名門ECMの専属に迎えられ珠玉のアルバムを数多く発表、一躍人気ピアニストになったのだが、作曲の才にも優れ「リービング」等の名曲をものしている。このソロアルバムでも、11曲のうち半分ほどがスペインの代表的作曲家フェデリコ・モンポウや、有名なバルトーク等と言った、所謂クラシック曲を取り上げており、残りはマイルスの「ソーラー」やモンクの「モンクス・ドリーム」、ウエイン・ショーターの「フット・プリンツ」と言った有名なジャズオリジナル。そして3曲が自身のオリジナルで「リービング」と並ぶ彼の銘曲「エルム」と「サンデイ・ソング」、そしてもう1曲が「サークル、チェイン・アンド・ミラー」で、この曲は武満に捧げて書かれたもの。ジャズと現代音楽の混在化とも言えるこの曲の関係もあって、武満がライナーを担当したのだが、武満はリッチーの素晴らしさについて"決して過度の自己耽溺に陥ることなく、音楽の全体験を冷静に見据えて繰り広げられる、その変化に富んだ旅を共にすることが可能...と綴り「彼の音楽は(詩人のラングスト・ヒューズの言う)偉大な大海であるジャズを形作る、無数の異なる潮流として停滞することなく、常に活き々とそれを息づかせていることにある...」とも記している。まさにその通りの素晴らしいソロプレーがここでは展開されている訳だが、このリッチー・バイラークの松代でのソロ・ライブ、まさに今回の嬉しい発見でもありました。
【今週の番組ゲスト:『Jaz in』編集長の佐藤俊太郎さん】
M1「Let You Bee / Taylor Eigsti 」(『Plot Armor』より)
M2「How High The Moon / Halie Loren」(『Dreams Lost And Found』より)
M3「The Wind / Fred Hersch」(『Silent,Listening』より)
M4「I'm A Fool To Want You / 渡辺貞夫」(『Peace』より)